転職エージェントに登録したものの、送られてくる求人がどうもピンとこない。連絡の頻度が想像と違う。担当者との会話が噛み合わない気がする——そういう違和感を持って検索した方が多いのではないかと思います。
結論から書きます。私は、転職エージェントは有用だが、「期待しすぎず、うまく活用する」ものだと考えています。
そして、うまく活用するために一番効くのは、テクニックではありません。なぜ無料で対応してくれるのか、その裏側の利益構造や動機に思いを馳せることです。構造が分かると、違和感の多くには説明がつきます。
この記事では、その構造の話と、そこから導かれる付き合い方を整理します。
前提として、私はエージェントに助けられた側です
構造の話から入ると冷たく聞こえるかもしれないので、先に立場を書いておきます。
私自身、エージェント経由で会社をいくつか紹介してもらい、実際にそこへ転職した経験があります。 使ってよかったと思っています。具体的に助かったのは、次のような点でした。
- 企業側へのアピールを代行してもらえる。 エージェントが自分のことを企業側に説明してくれるので、いい印象を持ってもらえたと思います。自分で直接応募するのとは、ここが違います
- 1対1対Nの形で、複数の企業に前段階で情報をパスしてもらえる。 一社ずつ自分で説明して回る必要がありません
- 転職市場の現在地を、その道のプロに聞ける。 普段働いていると、市場がどうなっているかは分かりません。ここは素直に価値があります
- 自分の客観的な希少価値と、想定されるキャリアパスが分かる。 ある種、残酷な事実を知る機会にもなりえますが、知っておいてよかったと思っています
- エージェントによっては、中長期目線でキャリアの相談から乗ってくれるところもあります
そのうえで、うまく活用するために構造を知っておくとよい、というのがこの記事の趣旨です。
まず、なぜ無料なのかを理解する
転職エージェントのサービスは、求職者側は無料で使えます。当然ですが、慈善事業ではありません。
一般的な仕組みとして、採用が決まったときに、企業側がエージェントに成功報酬を支払います。つまりお金を出しているのは企業側です。
ここから、一つの事実が導かれます。
エージェントから見れば、転職を考えている自分自身が「商品」の側にいる。
これは意地の悪い見方をしているのではありません。善悪ではなく、構造の話として理解しておくとよい、というのが私の立場です。むしろ構造を知らないまま「自分のために動いてくれる人」だと思い込むほうが、後で失望することになります。
構造を知ると、説明がつくこと
構造が分かると、違和感の正体が見えてきます。
報酬の率は、希少価値によって変わる
一般的に、自分自身の人材としての希少価値が高いほど、企業側が払う成功報酬の率も高くなる傾向にあります。伝え聞く範囲では、採用成功時に年収の100%を支払うようなケースもあるそうです。もちろん相場はもっと低いので、これは例外的な水準の話として捉えてください。
ここで言いたいのは金額そのものではなく、同じ1件の成約でも、エージェント側から見た重みは求職者によって違うという点です。
優先度を分けるのは、年収よりも「転職時期の近さ」
ただし、優先度を決めるのは報酬額だけではありません。むしろ大きいのは、いつ転職するかです。
エージェントには毎月の目標があります。となれば、今すぐ転職しようとしている人と、半年以上先を考えている人とでは、対応の優先度は当然変わります。
「まだ情報収集の段階なんですが」と伝えたときに反応が薄くなったとしても、それは自分の価値が低く見られたからとは限りません。単純に、今月の数字につながる順に対応しているだけということが多いはずです。
これも、担当者が不誠実だという話ではありません。限られた時間をどこに配分するかというインセンティブ設計の話です。「なんとなく扱いが軽い気がする」と感じたとき、原因を自分の人格や能力に求める必要はない、ということでもあります。
逆に、中長期の相談に乗ってもらえる場合もある
一方で、逆のケースもあります。年収が高く希少価値が高い人材の場合は、あえて中長期のキャリア相談から乗ってくれるエージェントもあります。
ただしこれは誰に対してもやっていることではなく、希少価値が高い人材にしか、なかなかその機会は提供されづらい構造にあります。
つまり「じっくり相談に乗ってもらえるかどうか」自体が、市場から見た自分の位置をある程度映している、とも言えます。厳しい話ですが、ここも知っておいて損はないと思います。
「決まりやすい求人」が優先されることもある
同じ理屈で、決まる確率が高い案件のほうが優先されやすい構造もあります。自分の希望と少しずれた求人を勧められたとき、それが自分にとっての最適ではなく、成約確率の最適である可能性は、頭の片隅に置いておいていいと思います。
繰り返しますが、これは批判ではありません。どんなビジネスにもインセンティブがあり、それを知って付き合うのは相手への敬意の欠如ではなく、単に大人の付き合い方だと思っています。
だから、複数を併用する
構造を踏まえたうえで、私が有効だと考えている使い方はシンプルです。
どれか一つに絞らず、複数のエージェントを活用して、多様な意見をもらうこと。
理由は3つあります。
1つは、得意領域が分かれていること。 転職エージェントは日本だけでも相当な数があり、しかも特定領域に強みを持つところがあります。コンサル転職に強いところ、外資系企業に強いところ、マーケティング関連の案件に強いところ、IT・WEB系に強いところ——といった具合です。1社だけだと、その会社が持っている求人の範囲でしか世界が見えません。
2つ目は、担当者一人の見立てに依存しなくて済むこと。 転職市場の見方も、あなたの経歴の評価も、担当者によって違います。一人の意見しか聞いていないと、それが市場の総意なのか個人の見解なのか区別できません。
実感として、エージェントの良し悪しは、会社というより担当者に依存するところがあります。 評判のいい会社でも担当者が合わないことはあるし、その逆もあります。会社名だけで判断しきれない、というのは知っておいたほうがいいと思います。
3つ目は、構造上の偏りを相対化できること。 複数から話を聞くと、どのエージェントも同じことを言う部分(=おそらく市場の事実)と、言うことが分かれる部分(=各社の事情や担当者の見解)が分かれて見えてきます。この切り分けができるだけで、判断の質は変わります。
最後は自分で決める
もう一つ大事だと思っているのが、最後は自分で決めるということです。
エージェントに期待しすぎないこと。そして——これは逆向きの話でもあるのですが——ずっと悩んでばかりでも埒が明かない、ということでもあります。
情報を集めるほど選べなくなる、という状態はよくあります。どこかで覚悟を決めて選ぶ「決め」も必要だと私は考えています。エージェントは判断材料を増やしてくれますが、決めることまでは代わりにやってくれません。というより、代わりに決めてもらってはいけない部分です。
エージェントに丸投げできない領域がある
ここまでの話をまとめると、エージェントに任せられることと、任せられないことがはっきりしてきます。
任せられないのは、自分がどういうタイプの営業なのかの言語化です。
私は、営業の転職ミスマッチはスキル不足ではなく、タイプと環境の取り違えで起きると考えています。新規開拓が武器の人を深耕中心の組織に、伴走型の人を短期で刈り取る文化に置いてしまう——そういう配置の問題であることが多い。
ここで問題になるのは、その取り違えを防ぐ情報を、エージェント側も十分には持っていないことです。求人票に「この組織ではどのタイプの営業が成果を出しているか」は書かれていません。担当者が全ての企業の内情を把握しているわけでもない。
つまり、「自分はこういうタイプなので、こういう環境が合う」と言語化して伝えられるかどうかが、紹介の精度を左右します。ここを曖昧にしたまま「良い求人があれば紹介してください」と伝えても、返ってくるのは条件面だけで絞り込まれた候補になります。
同じ理由で、自己PRもエージェントに書いてもらうものではありません。 自己PRは白紙から書くものではなく、過去の行動から掘り出すものです。掘り出す作業ができるのは本人だけです。具体的な手順は営業の自己PRの書き方の記事で整理しました。
そして、面接の場で組織の実態を確かめるのも本人の仕事です。何を聞けばミスマッチを防げるかは営業の面接での逆質問の記事にまとめています。
自分のタイプを言語化してから登録する
順番の話をすると、自分の強みとタイプを言語化してからエージェントに登録するほうが、確実に話が早くなります。
「営業経験5年、達成率120%」だけを伝えるのと、「新規開拓が武器で、型が固まりきっていない環境のほうが力が出る」まで伝えるのとでは、返ってくる候補がまったく違います。前者は条件で絞られ、後者は環境で絞られます。
私自身、転職を検討したときにここで詰まりました。自分がどういうタイプの営業なのかをうまく言語化できず、結果として、何を伝えればいいかも分かっていませんでした。当サイト「営業の通信簿」は、その反省から作った無料の診断です。性格や気持ちを聞くのではなく、実際にやってきた行動・実績を聞くことで、ハードスキル12軸・ソフト8軸の計20軸から強みを特定します(20軸の全体像は法人営業の強み一覧の記事で解説しています)。
まとめ
- 転職エージェントは有用。私自身、紹介してもらった会社に転職した経験があり、企業側へのアピール代行・複数社への一括の橋渡し・市場の現在地・自分の客観的な希少価値は、使わないと得られなかったものでした
- そのうえで期待しすぎず、うまく活用する。なぜ無料なのかを理解する。企業側が成功報酬を払う手数料ビジネスであり、構造上、求職者は「商品」の側にいる。善悪ではなく構造の話
- 報酬の率は希少価値によって変わる。ただし優先度を分けるのは年収よりも「転職時期の近さ」。反応が薄いのは自分の価値の問題とは限らない
- 逆に、希少価値が高い人ほど中長期のキャリア相談に乗ってもらえる構造もある
- 複数を併用する。①得意領域が分かれている ②担当者依存が大きい(良し悪しは会社より担当者)③各社で一致する部分=市場の事実、分かれる部分=各社の事情、を切り分けられる
- 最後は自分で決める。悩み続けても埒が明かないので、覚悟を決めて選ぶ「決め」も必要
- 丸投げできない領域がある。自分のタイプの言語化、自己PRの掘り出し、面接での見極めは本人の仕事
構造を知ったうえで付き合えば、エージェントは頼れる相手になります。過度に警戒する必要も、過度に期待する必要もない——それがちょうどいい距離感だと思っています。