「これは素晴らしいですね」と言われた。質問もたくさん出た。場の空気も良かった。なのに、そこから案件が進まない。何度か催促して、最終的に失注する——法人営業をしていると、必ず一度は経験する展開だと思います。

結論から書きます。商談時点の場の盛り上がりと、受注は結びつきません。 これは私自身が痛い目を見て学んだことでもあります。

この記事では、なぜ盛り上がっても決まらないのかを整理したうえで、決まる案件に共通する前提条件と、それを商談の中で確かめる方法をまとめます。

実際にあった例:好反応でも、上層部に通じても、決まらなかった

まず、私が経験したケースを書きます。

担当者・課長レイヤーに商品紹介をしたところ、「これは素晴らしい!」という好反応でした。質問もたくさん受けました。手応えとしては、かなり良い部類です。

それでも、すぐ受注になるわけではありませんでした。次に、その担当者・課長レイヤーが集めてくれた上層部に対して、再度デモを実施して提案しました。ここまで来れば決まる、と思う場面です。

結果は失注でした。上層部にも利便性自体は理解されたのですが、「現状の体制を変えてまで動き出す」とはならなかった。

わかりやすく言えば、「良いのは分かった。でも今じゃない」です。製品への評価は最後まで高いままで、それでも決まりませんでした。

なぜ盛り上がっても決まらないのか

「良い」と思うことと、「変える」と決めることは別

商談で盛り上がるのは、たいてい製品の良さが伝わったときです。しかし相手が意思決定するときに問われるのは、製品の良し悪しではありません。今の体制を変えるかどうかです。

この2つはまったく別の判断です。「良い製品だ」と評価しながら「今は変えない」と決めることは、何も矛盾していません。だから、盛り上がりは受注の予測にならないのです。

手応えは、自分のヨミも狂わせる

これは自分の案件管理にも効いてきます。

「あの案件、デモではすごく盛り上がったんですよね」——この情報は、案件が進むかどうかの判断材料としてはほとんど意味がありません。私はマネジメント側でこの手のコメントを受け取る立場も経験しましたが、正直に言って、ここから読み取れることはほぼ何もありませんでした。

自分のヨミを立てるときも同じです。手応えでランクを上げると、月末に足りなくなります。見るべきは空気ではなく、次に挙げる前提条件が揃っているかどうかです。

決まる案件に共通する3つの前提条件

私が結局のところ重要だと考えているのは、次の3つが揃っているかです。

1. 予算を持っているか

そもそも使えるお金があるか。今期の予算に入っているのか、それとも来期以降の話なのか。ここが無い場合、どれだけ良い提案でも決まりません。決まらないのではなく、決められないのです。

2. 現状を変えようとしているか

「困ってはいる」と「変えようとしている」の間には、大きな距離があります。困っているだけの状態は、現状維持と実質的に同じです。

先ほどの例で起きていたのは、まさにこれでした。利便性は理解された。それでも、現状の体制を変えてまで動き出すという判断にはならなかった

3. 変える気質が組織にあるか

これは個社のカルチャーの話です。新しいものを試す組織もあれば、前例のないことを避ける組織もあります。担当者にやる気があっても、組織として変化を嫌う場合、稟議は途中で止まります。

ただし、ここには例外があります。気質としては保守的でも、外部からの強力な圧力によって変えざるを得なくなることがあります。分かりやすいのが法改正です。対応しなければ事業が続けられないとなれば、変化を嫌う組織も動きます。

つまり③は、組織の性格だけで決まるものではありません。その組織が今、外から迫られているものがあるかまで含めて見る必要があります。


この3つは、盛り上がりからは一切分かりません。

そしてこれは、上振れ側でも同じです。一見まったく盛り上がっていない商談が、すんなり受注になることは実際にあります。「え?あの企業が?」という驚きは、法人営業をしていると何度か経験します。前提条件が揃っていれば、場の空気が淡々としていても決まるからです。

手応えが良かったのに失注する。手応えが薄かったのにあっさり決まる。どちらも同じ理由で起きています。

前提条件を、商談の中でどう確かめるか

では、どう確かめるか。「予算はありますか」と直球で聞く方法もありますが、私はその前にやることがあると考えています。

相手の事情を調べてから、仮説をぶつける

お客様に直球で「御社の課題は何ですか」と聞いても、たいてい何も出てきません。有効なのは、営業自身が仮説を持ったうえで、仮説をぶつけるように聞くことです。

「〇〇さんはXXX部門に所属されているため、△△のような課題があるのではないかと思っております。他社のXXX部門の方とお話ししていても同じようなご相談をいただくのですが、実際、御社としてはいかがでしょうか」——といったイメージです。

こう聞かれると、お客様は「この営業担当は自分たちのことをある程度調べてきたのだな」と感じます。この状態になってはじめて、予算や社内の温度感といった踏み込んだ話が出てきます。

そして、この仮説はインプットからしか出てきません。 自社の商材理解(誰のための製品で、誰の何を解決するのか、他社との違いは何か)と、顧客理解(相手の事業、あるある課題、相手の部署から想像できる日頃の業務と悩み)。ここが足りていないと、ぶつけるべき仮説そのものが手元にありません。

商談の手応えを読む技術を磨く前に、まずこのインプットを疑ったほうがよいというのが私の考えです。

なお、そもそもいつ・何を持って聞けばいいのかという順序の話は、営業のヒアリングのコツの記事で詳しく整理しています。

決裁者と利用者では、見ている論理が違う

もう一つ。担当者が「素晴らしい」と言うときに見ているのは、たいてい自分の日々の業務が楽になるかです。

一方、決裁者が見ているのは投資判断です。今それをやる理由があるか。ROIが合うか。そしてそれによってP/Lにインパクトがあるか。 見ている土俵がそもそも違います。

だから、担当者に刺さった説明をそのまま上層部に持っていっても通りません。先ほどの例で、上層部にも利便性が理解されながら決まらなかったのは、利便性の話のままだったからとも言えます。「便利になります」は、決裁者の問いに答えていません。

「検討します」で終わらせないために

前提条件が揃っていると分かった案件でも、進め方次第で止まります。ここは技術の話です。

ネクストアクションを切る

商談の終わり際のクロージングこそ、営業の腕前が求められるシーンだと私は考えています。受注できない人ほど、ここで一押しができません。私も最初はそうでした。 良い人であろうとすると、決め所で踏み込めなくなります。嫌われる覚悟を持つことも必要です。

先方が「検討します」で終わってしまうと、次に進みづらくなります。だから、次の打ち合わせにつながる機会を必ずつくる

相手側の検討が前に進むアクションを渡す

こちらから何かを渡して、先方の社内で検討が進む状態にするのが有効です。私が使ってきたのは、たとえばこういうものです。

  • NDAを締結したうえで、お客様のデータを使って無料で検証する。 相手の社内で具体的な議論の材料ができます
  • あるテーマについて、他社がどう取り組んでいるかの事例を共有する。 業界的に取り組む会社が増えているテーマなら、先方の計画の参考になります

これ以外にもいくつもあります。共通しているのは、お客様側のアクションが次に進みやすくなるものを渡しているという点です。

値引きで押さない

決まらないとき、値引きに手が伸びがちですが、むやみやたらに値引きはしないというのが私の立場です。

値引きするなら、何かしらこちら側にも見返りのある条件をセットにします。たとえば、導入事例としてインタビューさせていただく代わりに値引きする、といった形です。

もう一つの考え方が、初期費用をはじめから設定しておき、それを無料にすることでコンペリングイベントをつくるというやり方です。コンペリングイベントとは、顧客が「今すぐ何かを変えなければならない」と迫られる、重要な出来事や状況のことです。

先ほど、保守的な組織でも法改正のような外圧があれば動く、と書きました。あれはコンペリングイベントが外から発生した状態です。つまりコンペリングイベントは、外から起きるのを待つこともできれば、こちらから作ることもできる。前提条件の②が弱い案件に対しては、後者を仕掛ける発想になります。

ただし、こうした価格設計は営業の担当者レベルで決められることではありません。マネジメント層が意識すべきことです。もし気づいていないようであれば、担当者から社内に提案してみるとよいと思います。

手応えではなく、条件で振り返る

失注したとき、「自分の詰めが甘かった」と自分の技術のせいにしてしまうことがあります。私もそうでした。

ただ、振り返るべきは3つの前提条件が揃っていたかどうかが先です。揃っていなかったなら、それは技術の問題ではありません。そもそも決まらない案件に時間を使っていたという、案件選びの問題です。

揃っていたのに決まらなかった場合にはじめて、ネクストアクションの切り方や決裁者への伝え方という技術の話になります。この順番を逆にすると、直すべきでないところを直そうとして消耗します。

そして、どの技術を伸ばすべきかは人によって違います。決め所で取り切る力が武器の人もいれば、複数の意思決定者がいる大型案件の攻略が武器の人もいる。当サイト「営業の通信簿」では、法人営業の力をハードスキル12軸・ソフト8軸の計20軸に分解しています(20軸の全体像は法人営業の強み一覧の記事で解説しています)。自分の型が分かると、伸ばすべき技術も絞れます。

まとめ

  • 商談の盛り上がりと受注は結びつかない。「良い」と思うことと「変える」と決めることは別の判断
  • 逆に、淡々とした商談があっさり決まることもある。「え?あの企業が?」も同じ理由で起きる
  • 手応えでヨミを立てると狂う。「デモで盛り上がった」は判断材料にならない
  • 決まる案件の前提条件は3つ——①予算を持っているか ②現状を変えようとしているか ③変える気質が組織にあるか
  • ③は組織の性格だけで決まらない。法改正のような外圧があれば、保守的な組織も動く
  • 前提条件は盛り上がりからは分からない。仮説をぶつけて聞く。そしてその仮説は商材理解・顧客理解のインプットからしか出てこない
  • 担当者が見ているのは「業務が楽になるか」、決裁者が見ているのは「ROIが合うか、P/Lにインパクトがあるか」。土俵が違う
  • 「検討します」で終わらせず、相手側の検討が前に進むアクションを渡す。値引きで押さない
  • コンペリングイベントは外から起きるのを待つことも、こちらから作ることもできる
  • 失注の振り返りは、技術の前に前提条件が揃っていたかから

手応えが良かった案件ほど、失注したときのダメージは大きいものです。ただ、そこで落ち込む前に条件を確かめてみると、自分の技術の問題ではなかったと分かることも多いと思います。

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