「御社の課題は何でしょうか」と聞いたのに、当たり障りのない答えしか返ってこない。「特に困っていないですね」で終わる。そこから商談が深まらない——法人営業をしていると、よくある場面だと思います。

結論から書きます。課題は「聞く」ものではなく、聞く権利を得てから引き出すものだと私は考えています。

質問のフレーズを増やしても、この順番が間違っていると機能しません。この記事では、①なぜ直球の質問が機能しないのか ②いつ聞けばいいのか ③何を持って聞けばいいのか ④聞いたあと何を確かめるのか、の順に整理します。

なぜ「御社の課題は何ですか」が機能しないのか

相手には、答える義理がない

前提として、初対面の営業に自社の課題を話すのは、相手にとって手間でありリスクでもあります。答える義理がない、というのが出発点です。

もし自分が、優秀なコンサルタントとして知られている、あるいはSNS等で広く認知されている——そういう立場であれば、いきなりヒアリングをしてもある程度は答えてもらえるでしょう。相手の側に「この人になら話す価値がある」という判断材料が先にあるからです。

しかし、まだ知られていない立場であれば、相手の本音は「まずお前は誰なんだ。お前に興味はない」に近いところにあります。ここを飛ばして質問すると、答えは当たり障りのないものになります。相手が不誠実なのではなく、当然の反応です。

「ヒアリングされにきたわけではない」

もう一つ、相手の期待とのズレがあります。

商談の場に来た相手が求めているのは、多くの場合「まずサービスの話を聞くこと」です。そこで先に質問を重ねると、「こちらはサービス紹介をしてほしいのであって、ヒアリングされにきたわけではない」というスタンスになってしまいます。

質問の内容以前に、質問するタイミングの問題であることが多い、というのが私の実感です。

順序:まず分かりやすくサービス紹介、そのあとに聞く

では、いつ聞くか。前提条件にも左右されますが、私の経験上は、商品・サービス紹介の前に、いきなり課題のヒアリングをしないほうがよいと考えています。

順序としてはこうです。

  1. まず分かりやすくサービス紹介をする
  2. 相手に「この営業はある程度信頼が置けそうだ」と思ってもらう
  3. そこではじめて、徐々に課題を聞く権利を得られる

「課題を聞く権利」という言い方をしているのは、これが自動的に与えられるものではないからです。信頼の分だけ、聞ける深さが増えていく——私はそういうイメージを持っています。

一般的なヒアリングの解説では「まず課題を引き出し、それに合わせて提案する」と書かれることが多く、それ自体は間違っていないと思います。ただ、その前段にある信頼の有無が抜け落ちていることが多い。順序を知らないまま質問の技術だけ磨いても、返ってくる答えは変わりません。

なお、ここは前提条件に左右されます。既存顧客の担当引き継ぎや、紹介経由で信頼が最初から一定ある場合は、この限りではありません。

何を持って聞くか:直球ではなく、仮説をぶつける

聞く権利を得たとして、次は聞き方です。ここでも直球は避けます。

私が有効だと考えているのは、営業自身が仮説を持ったうえで、仮説をぶつけるような形で聞くことです。

「〇〇さんは、XXX部門(例:情報システム部門)に所属されているため、△△のような課題があるのではないかと思っております。これまで他社のXXX部門の方とお話ししていても、同じようなご相談をいただくのですが、実際、御社としては現在いかがでしょうか?」

(あくまで例なので、相手や状況に合わせて調整してください。)

こう聞かれると、お客様は「この営業担当は自分たちのことをある程度調べてきたのだな」と感じます。第一印象が変わり、そこから先の答えの質も変わります。

直球の質問との違いは、相手の負荷です。「課題は何ですか」はゼロから言語化させる質問ですが、仮説をぶつける聞き方は「合っているか、違うか」を判断してもらう質問です。後者のほうが、圧倒的に答えやすい。

そして、外れていても構いません。「いや、うちはそこではなくて」と訂正が返ってくれば、それが最も価値のある情報です。

仮説はどこから来るのか

ここが、この記事で一番伝えたい部分です。

仮説は、インプットからしか出てきません。 仮説をぶつける聞き方が良いと分かっても、ぶつけるべき仮説が手元になければ実行できない。「調べてから行こう」と思っても、何を調べればいいか分からない——ここで止まっている人は多いと思います。

材料は大きく2つです。

1. 商材理解

誰のための製品で、誰の何を解決するのか。他社との違いは何なのか。挙げていけばいくつもありますが、ひとことでいえば自社の商材をどれだけ理解しているかです。

これが曖昧だと、そもそも「相手のどこに刺さる可能性があるか」の当たりがつきません。仮説以前の問題になります。

2. 顧客理解

相手の会社がどんな事業をしているのか。その業界のあるある課題は何か。そして——ここが具体的な差になりますが——相手の部署から想像できる、日頃の業務と悩みです。

上の例文が成立しているのは、「情報システム部門ならこういう課題があるはずだ」という部署起点の想像があるからです。会社を調べるだけでは足りず、目の前の相手の日常まで降りる必要があります。

自社・競合・顧客ということで3C分析として整理されることもありますが、フレームの名前が大事なのではありません。インプットの量と質が足りているかが問題です。

下調べは、ある程度まで仕組み化できる

とはいえ、商談のたびに一社ずつ調べるのは負担です。私も以前は、商談準備のたびに都度WEBで該当企業を調べていました。

そこで、一連の商談準備をAIを使った仕組みとして自動化しました。結果として商談準備の時間が大幅に削減され、他の業務にも手を回せるようになりました。

ポイントは、毎回決まりきった調査・下準備であれば、仕組み化が非常に有効だということです。企業概要、事業内容、業界の動向——このあたりは型が決まっています。

一方で、案件によっては個別の準備が必要で、そこは手動対応が要ります。全部は自動化できません。仕組み化で浮いた時間を、その個別の部分に回す、という使い方が現実的だと考えています。

聞いたあと:案件が読めるかどうかは別の話

最後に一つ。ヒアリングがうまくいって課題を引き出せても、それは受注の予測にはなりません。

商談で「これは素晴らしい」と好反応でも、そこから進まずに失注することはあります。深く聞けたこと自体は、案件が決まる根拠にならない。

引き出すべきなのは課題だけでなく、予算を持っているか/現状を変えようとしているか/変える気質が組織にあるかという前提条件のほうです。ここは商談は盛り上がったのに失注する理由の記事で詳しく整理しました。

ヒアリングは課題を掘るためだけの技術ではなく、この案件が動くのかを見極める技術でもある、と捉えると精度が上がると思います。

ヒアリングは、営業力のうちの一つ

ここまでヒアリングの話をしてきましたが、最後に立ち位置を書いておきます。

ヒアリングは営業力の一部であって、全部ではありません。当サイト「営業の通信簿」では、法人営業の力をハードスキル12軸・ソフト8軸の計20軸に分解していますが、ヒアリング・質問力(課題発見)はそのうちの1軸です。ここが強い人もいれば、決め所で取り切る力や、関係を長く続ける力が武器の人もいます(20軸の全体像は法人営業の強み一覧の記事で解説しています)。

苦手なところを平均まで持っていくより、自分の武器がどこにあるかを知って、そこを伸ばすほうが早い場面も多いと思います。成果が出ないときに何を疑えばいいかは営業に向いてない、と感じたときの記事でも整理しています。

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まとめ

  • 課題は「聞く」ものではなく、聞く権利を得てから引き出すもの
  • 直球の「御社の課題は何ですか」が機能しないのは、相手に答える義理がないから。知られていない立場なら「まずお前は誰なんだ」が本音
  • 相手が求めているのはまずサービスの話。分かりやすく紹介 → 信頼 → 課題を聞く権利、という順序
  • 聞き方は直球ではなく仮説をぶつける。相手の負荷が下がり、外れても訂正という価値ある情報が返る
  • 仮説はインプットからしか出てこない。商材理解と、相手の部署から想像できる日頃の業務・悩みまで降りた顧客理解
  • 毎回決まりきった下調べはAIで仕組み化できる。ただし個別の準備は手動で残る
  • 深く聞けたことは受注の予測にならない。前提条件(予算/変える意思/変える気質)を確かめる

質問のフレーズ集を増やす前に、順序とインプットを見直してみてください。返ってくる答えが変わるはずです。