数字が出ない。同期は決めているのに自分は決まらない。商談の帰り道で「自分は営業に向いていないのかもしれない」と考える——そういう時期に、この記事にたどり着いた方が多いのではないかと思います。
先に立場を書いておきます。私は、「向いていない」という一言の中には、まったく別の3つのことが混ざっていると考えています。そして混ざったままだと、何を変えればいいのかが分からず、判断もできません。
- ① 心身の状態が削られている
- ② 自分のタイプと、今の環境が噛み合っていない
- ③ インプットと技術に伸びしろがある(商材・顧客の理解が足りない/まだ身についていない型がある)
この記事では、この3つをどう切り分けるかを整理します。辞めたほうがいい/続けたほうがいい、という結論は書きません。 それは状況によって変わるもので、外から断定できることではないと思っています。書けるのは、判断するための材料の整え方までです。
順番が大事:まず①から確かめてほしい
3つのうち、最初に確かめてほしいのは①の心身の状態です。ここが削られているときは、②や③をいくら分析しても正しく判断できません。
転職のきっかけには大きく2種類あって、評価されない・給与が上がらない・職場環境が厳しいといった理由から動く場合が一般的には多いのだと思います。ただ、そこで一番大事なのは分析ではなく、自分自身の心身の状態です。唯一の答えはありませんが、何より体調を崩さないことを優先してほしい、というのが私の立場です。
眠れていない、休日も回復しない、体に症状が出ている——そういう状態であれば、「向いているかどうか」の検討は後回しにして構わないと思います。適性の話は、立て直してからでも遅くありません。
以下の②③は、そこに余裕がある前提で読んでください。
②「営業が向いていない」のではなく「今の環境と噛み合っていない」場合
ここが、この記事で一番伝えたい部分です。
私は、営業のミスマッチは「スキル不足」ではなく「タイプと環境の取り違え」で起きると考えています。優秀な営業が転職先で潰れるのは、能力が落ちたからではありません。新規開拓が武器の人を深耕中心の組織に、伴走型の人を短期で刈り取る文化に置いてしまう——そういう配置の問題であることが多い。
そして、これは転職に限った話ではありません。今いる会社が最初から自分のタイプと噛み合っていないことも、当然あります。
どのタイプにも「噛み合いにくい環境」がある
当サイト「営業の通信簿」では、法人営業の強みをハードスキル12軸・ソフト8軸の計20軸で測り、その組み合わせから7つのタイプに分類しています。重要なのは、7タイプすべてに「輝く環境」と「噛み合いにくい環境」の両方があることです。
| タイプ(役割の重心) | 噛み合いにくい環境 |
|---|---|
| ハンター(ゼロから商談をつくる) | 既存顧客への深耕や受注後の伴走が中心で、新規開拓の機会自体が少ない組織 |
| クローザー(決め所で取り切る) | 稟議・調整プロセスが極端に長く、個人のクロージング力より社内調整力が成果を左右する組織 |
| エンタープライズ攻略者(大型・複数決裁者を攻略) | 意思決定者が1人で完結する小口・スピード重視の案件が中心の組織 |
| ソリューション設計者(課題を引き出し提案を組む) | 商材がシンプルで、深いヒアリングよりスピードと数量が重視される組織 |
| リレーション・ビルダー(長期の信頼と業界理解) | 短期的な新規獲得のスピードが最優先で、関係構築に時間をかける余地が少ない組織 |
| 伴走者(契約後の成果に寄り添う) | 受注したらすぐ次の新規に移る、契約後のフォローが評価されにくい組織 |
| セールス・アーキテクト(型化・仕組み化で全体を上げる) | 個人の数字だけで評価され、型化・仕組み化の貢献が成果として見えにくい組織 |
この表を見て、「自分が今いるのは、右の列に書いてある環境だ」と思い当たるなら、②の可能性が高いと考えられます。
たとえば型化・仕組み化に強みがある人が、個人の数字だけで評価される組織にいると、貢献しているのに評価されません。本人は「営業として向いていない」と受け取りますが、実際には評価の対象がずれているだけです。
噛み合わなかったのは、能力の問題ではなかった
具体例を一つ挙げます。私が見たケースです。
製品も組織もまだ未熟で、一人ひとりの裁量が大きい環境がありました。各自が自分で課題を見つけ、目的達成のために主体的に動くことが前提になっている。そこに、上司から具体的な指示が出るまでは動かない・動けない方が入社しました。
結果として、その方に対して常に具体的な指示を出す必要が生じ、組織全体としては生産性がマイナスになりました。教育に割ける余裕がない状態でもありました。そして動けない側からすると、「マネージャーが微妙。ちゃんと教えてくれない」という評価になる。どちらにも悪意はないのに、双方が不満を持つ状態です。
このとき、入った側が「自分は営業に向いていない」と結論づけるのは、私は違うと思います。起きていたのは能力の高低の問題ではなく、組織の前提(自走が要るか、型があるか)と本人のタイプの組み合わせの問題でした。指示が明確な組織であれば、同じ方が高い成果を出した可能性は十分にあります。
「営業」とひと括りにすることは、求人・採用の都合上ある程度は仕方ないことだと思います。ただそのせいで、強みも活躍できる環境も人によって全く違うという当たり前のことが見えにくくなっている。
③「向いていない」の正体が、インプットと技術の伸びしろである場合
一方で、②だけを強調するのは誠実ではないと思っています。環境のせいにできない部分も、当然あります。
ここで避けたいのは、「気合いが足りない」で片づけてしまうことです。精神論そのものを否定はしませんが、分解しない精神論は害になると考えています。「気合いがある」と言われるものは、実際には目標達成意欲・ストレス耐性・自走力・行動量という4つの別能力の混合体です(この分解は営業の「主体性」とは何かの記事で詳しく整理しています)。
同じように、「向いていない」と感じる場面も具体的な要素に分解できます。そして、いきなり商談の技術の話に行かないほうがよいというのが私の考えです。順番があります。
まず疑ってほしいのは、インプット不足
売上が伸びない原因は、「決め所で一押しができない」といった技術的なところだけではありません。それ以前に、インプットが足りていないことがあります。 成果が出ていないとき、私はまずここを疑ったほうがよいと考えています。
インプットは大きく2つです。
1つは商材理解。 誰のための製品で、誰の何を解決するのか。他社との違いは何なのか。——挙げていけばいくつもありますが、ひとことでいえば自社の商材をどれだけ理解しているか、です。
もう1つは顧客理解。 商談相手となる顧客について、あるある課題は何か。どんな事業をしているのか。そして、相手の部署から想像できる日頃の業務と悩み。ここまで想像できているかどうかで、商談の中身は変わります。
自社・競合・顧客ということで3C分析として整理されることもありますが、フレームの名前が大事なのではありません。インプットの量と質が足りているかが問題です。
「トークがうまくならない」「話が盛り上がらない」と感じている場合、原因が話し方ではなく、そもそも話す材料を持っていないことにある——これは十分にありえます。そしてこれは、適性の問題ではまったくありません。
決め所で一押しができない
商談の終わり際のクロージングこそ、営業の腕前が求められるシーンだと私は考えています。そして受注できない人ほど、ここで一押しができません。私も最初はそうでした。
理由は単純で、良い人であろうとするからです。嫌われる覚悟を持てないと、決め所で踏み込めません。先方が「検討します」で終わってしまうと次に進みづらいので、次の打ち合わせにつながる機会を必ずつくる。たとえばNDAを締結したうえで、お客様のデータを使って無料で検証してみる。あるいは、あるテーマについて他社がどう取り組んでいるかの事例を共有して、先方の計画の参考にしてもらう。
これは適性ではなく、やり方の問題です。知って練習すれば変わります。
ヒアリングで相手が心を開いてくれない
もう一つ。お客様に直球で「御社の課題は何ですか」と聞いても、たいてい何も出てきません。
私が有効だと考えているのは、営業自身が仮説を持ったうえで、仮説をぶつけるように聞くことです。「〇〇さんはXXX部門に所属されているため、△△のような課題があるのではないかと思っております。他社のXXX部門の方とお話ししていても同じようなご相談をいただくのですが、実際、御社としてはいかがでしょうか」——といったイメージです。こう聞かれると、お客様は「この営業担当は自分たちのことをある程度調べてきたのだな」と感じ、第一印象が変わります。
ここで前の節につながります。この仮説は、インプットからしか出てきません。 商材と顧客を理解していなければ、ぶつけるべき仮説そのものが手元にない。だから質問の技術だけを磨いても、聞くべきことが出てこないのです。インプットが先で、質問の型は後です。
順序の問題もあります。前提条件にも左右されますが、私の経験上、商品・サービス紹介の前にいきなり課題のヒアリングをしないほうがよいと考えています。すでに一定の信頼を得られている立場ならヒアリングから入っても答えてもらえるでしょうが、そうでなければ「まずお前は誰なんだ」というのが相手の本音でしょう。信頼がない状態でいきなり質問されても、心は開きません。まず分かりやすくサービス紹介をして、「この営業はある程度信頼が置けそうだ」と思ってもらう。そこではじめて、課題を聞く権利を得られる——私はそういうイメージを持っています。
これも適性の話ではありません。順序を知らなかっただけ、ということは十分にあります。
事実で切り分ける3つの問い
では、自分の場合が①②③のどれなのか。ここで避けたいのは、「自分は営業に向いていると思うか」と自問することです。気持ち・自己イメージで測ろうとすると、ほぼ当たりません。
代わりに、過去の事実で確かめます。
問い1|過去に、うまくいっていた時期はあるか
同じ「営業」でも、担当商材・顧客層・売り方が変わった前後で成果が変わっていないか。前は出ていたのに今は出ていないなら、②の可能性が高くなります。適性が数か月で失われることは、まずありません。
問い2|社内で成果を出している人と、自分のやっていることは何が違うか
差が具体的な行動(説明の仕方、稟議のサポート、当たる順番など)で説明できるなら、③です。行動は移せます。
このとき、商談の場での振る舞いだけでなく、商談の前に何を調べているかも比べてみてください。成果を出している人が顧客の事業や部署の事情をどこまで把握して商談に入っているか。ここに差があるなら、原因は話し方ではなくインプットです。
営業企画の立場から売れる人の行動を型化していく仕事に関わったことがありますが、結果を残している営業は、お客様への説明の仕方や稟議のサポートなど、やっていることが明確に違いました。差は「気合い」ではなく、再現可能な行動の差であることが多い。
ただし、正直に書くと、完全には型化できない部分もあります。営業自身の印象、話し方、人当たりの良さ、信頼できそうな空気感——このあたりは型に落としきれない面があります。そこが決定的に効く商材・顧客層なら、②として考えたほうが現実的なこともあります。
問い3|評価されている行動と、自分が価値を出している行動は一致しているか
ずれているなら②です。前述の「型化に強い人が個人数字だけで評価される組織にいる」がこの形です。この場合、努力の量ではなく、評価の対象と自分の強みが噛み合っていないことが問題になります。
辞める・辞めないを決める前に
②だと分かった場合、環境を変えるという選択肢が出てきます。ただ、その判断について私が持っている考えを一つだけ書きます。
転職のきっかけには、ネガティブなものとポジティブなものがあります。前者が一般的には多いと思いますが、あくまで例え話として、「今辞めたら上司や同僚に引き止められるだろうな」と思えるときは、検討してもよいタイミングかもしれません。止められるくらい価値を出せている証拠であり、キャリアアップにつながる可能性もあります。
逆に言えば、「今の自分は誰にも引き止められない」と感じるなら、③に取り組む時期という見方もできます。どちらが正しいということではなく、自分がどちらの状態にいるかを把握しておくと、判断がぶれにくいという話です。
そして、もし環境を変えると決めた場合。同じ取り違えを繰り返さないために、次の環境が自分のタイプと噛み合うかを面接で確かめる必要があります。何を聞けばいいかは営業の面接での逆質問の記事で整理しました。
自分のタイプと、輝く環境を知る
ここまで書いてきて、実は前提に触れていませんでした。②か③かを切り分けるには、自分がどのタイプなのかを知っている必要があります。
私自身、転職を検討したときにここで詰まりました。自分がどういうタイプの営業なのかをうまく言語化できず、結果として、何が噛み合っていないのかも説明できませんでした。当サイトの診断は、その反省から作った無料のツールです。
性格や気持ちを聞くのではなく、実際にやってきた行動・実績を聞くことで、20軸の中からあなたの強みを特定し、7タイプのどれに近いかと、輝く環境・噛み合いにくい環境を提示します(20軸の全体像は法人営業の強み一覧の記事で解説しています)。
「向いていない」と感じている状態から抜けるために必要なのは、たいていの場合、頑張り方を変えることではなく、何が噛み合っていないかを言葉にすることだと私は考えています。
まとめ
- 「営業に向いていない」は、①心身の状態/②タイプと環境の不一致/③インプットと技術の伸びしろの3つに分けて考える
- 最初に確かめるのは①。体調を崩さないことを何より優先してほしい
- ②について、7タイプすべてに「噛み合いにくい環境」がある。噛み合わないのは能力の高低ではなく組み合わせの問題
- ③は順番が大事。いきなり商談の技術に行かず、まず商材理解と顧客理解のインプットを疑う。「話が盛り上がらない」の原因が、話し方ではなく話す材料を持っていないことにある場合は多い
- そのうえで、クロージングの一押しやヒアリングの順序も、適性ではなくやり方の問題。ヒアリングの仮説もインプットからしか出てこない
- 自己イメージではなく、過去の事実で切り分ける(前は出ていたか/成果を出す人との差=商談前に何を調べているかも含む/評価対象と強みの一致)
- 辞める・辞めないは状況によるもので、外から断定できることではない。判断材料を整えることはできる
向いていないのは営業そのものなのか、今の環境なのか、それともまだ足りていないインプットや型があるだけなのか。まずはそこを分けてみてください。